過去二回にわたり、確率や統計の基本的な事項について解説してきました。
ABテストやデータ分析で役に立つ確率統計①確率の基本
ABテストやデータ分析で役に立つ確率統計②確率分布や正規分布
今回は、これらの内容についての理解を深めていただくために、身近な例であるガチャを用いて解説します。
ガチャは、ソシャゲにつきもののデジタルの福引のことです。
ガチャを引くと、ゲーム内で使える武器やキャラクターを引くことができるのですが、レアが当たる確率は非常に低く設定されています。
そのため、ガチャは1回数百円で引けるのですが、欲しいキャラを当てるまで粘ると、結構な金額になることもあります。
私も含め、これまでにガチャに挑戦して悔しい思いをしたことがあるかもしれません。
ガチャで中々当たらないと、「なんで当たる確率が1%なのに100回引いても出ないんだ!!」と不満に思うこともあると思います。
上で例に出した「当たる確率1%」は、直感的には100回引けば1回は当たりそうなものですが、実はガチャで100回引いて少なくとも1回当たる確率は63%程度にしかなりません。
この記事では、なぜそのような確率になるのか?当てるにはどうしたらいいか?ということについて解説します。
ガチャとリアル福引の仕様の違い
まず、ガチャはリアルの福引とは全然違うということをお伝えします。
この仕様の違いがあるので、ガチャでは当りが引きにくくなっています。
これらの違いについて考えるために、
「箱に当たりの玉が1個、ハズレの玉が99個入っていて、1個ずつ玉を引く」…(*)
ということを考えます。
リアル福引の仕様
リアル福引の場合、玉を引く前は当たりの確率は1/100ですね。
ここからハズレの玉を1個引いたとしましょう。
すると、当たりの玉は1個、ハズレの玉は98個になるので、この状態での当たりの確率は1/99となり、玉を引く前の1/100より当たる確率が大きくなっています。
この状態から、またハズレを引いたとします。
当たりの玉は1個、ハズレは97個になるので、この状態での当たりの確率は1/98となり、さきほどの1/99より当たる確率は大きくなっています。
この調子で玉を引いていくと、ハズレの玉を引くごとに徐々に当たる確率が高まっていき、そのうち当たりを引くことができます。
今回は玉の数が100個という設定なので、最悪全部引けば必ず当たります。
このように日常の感覚だと、「徐々に当たる確率があがっていく」ということが分かっていたり、この場合のように“最後まで引けば必ず当たる“ということが分かっているので、”当たる確率1%“なら100回くらい引けば当たるだろうと思うわけです。
ところが、ガチャはリアル福引と全然異なる仕様なので、このような感覚で挑戦すると痛い目に合います。
ガチャの仕様
ガチャの場合も、玉を引く前はリアル福引と同様に当たる確率は1%です。
では、ここでハズレを1個引いたとしましょう。
この時、残りの玉の状況はどうなっているでしょうか。
実はデジタルデータでは、リアル福引のように、ハズレの玉が減っていきません。
そういう仕様になっています(確率を変化させる仕様は、運営者にとってメリットがあまり無いので実装しないと思います)。
従って、ハズレを何個引こうが当たる確率は常に1%ですし、100回引いても必ず当たるわけではありません。
リアル福引で考えると、引いたハズレの玉をまた箱の中に戻すことと同じです。
こんなことをリアル福引でやられたらヒンシュクを買うと思うのですが、ガチャではそれが普通です。
当たる確率が1%のガチャを100回引いたときに、少なくとも1回当たる確率
それでは以上の仕様を踏まえて、1%で当たる確率のガチャを100回引いて、少なくとも1回当たる確率を求めてみましょう。
今回の問題は、樹形図などを使って数えあげていくことでも答えがわかるのですが、ちょっと面倒です。
そのため、今回は「余事象」を使って解いていきます(余事象は、ある事象以外の事象のこと)。
全ての事象の確率の和が1(=100%)となるので、求めたい事象の確率と余事象の確率の和が1となる性質を使うことで、楽に解くことが出来ます。
まず、求めたい事象の確率をP、余事象の確率をQとすると、
P+Q=1
となります。この式を変形し、
P=1-Q …①
としておきます。
Qが分かればPを求められるので、まずはQを求めます。
ここで、
P:1%で当たるガチャを100回引いて少なくとも1回当たる確率
なので、Pは1回以上当たる場合を全て含みます(2回当たる場合も3回当たる場合もPに該当します)。
※これらを全部考えるのが手間なので余事象を使っています。
余事象の確率QはPの事象以外の確率なので、
Q:1%で当たるガチャを100回引いて1度も当たらない確率
となります。
1回引いてハズレる確率は1から当たる確率から引けばいいので、1-1/100=99/100です。
これが100回続くとQになるので、100回すべて外れる確率は(99/100)^100です。
これがQなので①に代入すると、
P=1-(99/100)^100
となります。
手計算では大変なのでエクセルで計算したところ、Pは約63%となりました。
つまり、100回引いても約4割の確率で当たらないことになります。
ちなみに200回引くと、当たる確率が約87%、300回なら約95%です。
300回引いてようやくほぼ当たる計算になります。
単純に考えて、リアルの3倍の回数を引かなければならないことになりますね。
a%で当たるガチャをn回引いたときに、少なくとも1回当たる確率
ここまでは当たる確率が1%と具体的な値にしていましたが、皆さんが使いやすい式を作るために、当たる確率がa%でn回引く場合に少なくとも1回当たる確率を求めてみましょう。
先ほどと同様に、まずは余事象の確率Qを求めます。
まず、ハズレの確率が1-a/100なので、これをn回繰り返すと考えて、
Q=(1-a/100)^n
となるので、①から、
P=1-(1-a/100)^n
となり、これが答えです。
エクセルなどで計算できるようにしておくと、ガチャを引くときに便利です。
ガチャで当てるコツや考え方
上で紹介した計算結果やご自身で計算した結果を見て、
「引くのやめようかな…」
と思うような結果が出ることが多いかと思います。
でもちょっと待ってください。
ガチャで当たりを引く方法があります。
実は、ガチャは「分散に期待する」というのが肝です。
これでは何のことかわからないと思うので、確率や統計の基本的な考え方をおさらいから進めていきましょう。
ここでも当たる確率1%のガチャを100回引く場合を例にします(玉の総数は100個より多いとお考えください)。
まず、「ガチャを100回引いて当たる確率がa%」がどういうことかを考えてみます。
ガチャを100回引くという操作を1セットとします。
1セット引いたときに、運よく当たりが2回出ることもありますし、3回出ることもあるかもしれません。逆に1回も出ないこともありえます。
2回出たときは、そのセットにおいては当たりの確率が2%となりますし、3回出た場合は3%となります。
このように何回か当たる場合や、1回も当たらない場合というように、当たる数(確率)にばらつきが生じます。
このばらつきのことを分散と言います。
下記のようなイメージです。
分散によって、a%より右の確率を引ければ、それだけ当たる確率が高まるということになります。
つまり、「今回は引けなかったけど、次はばらつきによって当たるかもしれない…!」と考えてガチャに挑戦することが、「分散」に期待するということです。
実際に確率には分散があるわけですから、この考え方は何もおかしくありませんよね?
ガチャの確率の低さに恐れずに挑戦しましょう。
そもそも引かなければ絶対に当たらないわけですからね。
そして、その考え方を持っていれば、「次はばらつきによって当たる!」と考えることが出来、ガチャを引くモチベーションを維持し続けることが出来ます(モチベーションは、ガチャを引き始めてから下がることなく一定…(ア))。
ガチャを引く回数をNとすると、N=1の時は当然ガチャを引きます。
N=kの時にも引くと仮定して、(ア)によりN=k+1の時にも引きます。
よって、数学的帰納法により任意のNでガチャを引くことが証明されました。
従いまして分散を知っていれば、ずっと高いモチベーションを維持し続け、当たるまで引けるので必ず当てられます。
これこそがお目当てのキャラやアイテムをガチャで引き当てる極意です。
実際にガチャを引きました
著作権には詳しくないのでタイトルとかは伏せておきますが、某有名RPGの世界観で作られた、最後の幻想的なゲームです。
そのゲームで、ちょうど懐かしの有名キャラが当たるイベントを開催していたので、実際にガチャってみました。
欲しいキャラはツンツン頭の金髪メンヘラキャラで、当たる確率は0.87%とのこと。
ガチャ1回あたりの金額は200円として、当たる確率と溶かす金額を計算しました。(金額は引く回数に単に200円を乗じており、期待値ではないです)
100回:約55% (2万円)
200回:約80% (4万円)
300回:約91% (6万円)
この結果から、「6万円払わないと当たらないのか…」と思った方は、まだ確率の本質を理解しているとはいえません。
分散の力で、もっと手前で当たる可能性があります!!
結果
当たるまでの回数:80回 (1.6万円)
80回引いて少なくとも1回当たる確率を計算したところ、約47%だったので、かなり引きが良かったと思います。
これで、分散のすごさが分かっていただけましたよね?
まとめ
今回はガチャを例にして、確率についてお話ししました。
身近な例を用いたので、興味を持って読んでいただけたのではないかと思います。
ちなみに、ギャンブラーが「次こそは当たる…!」と言いながらチャレンジし続けることには、実は数学的な背景があったということもご理解いただけたかと思います。
皆様もガチャを引くときには、当たる確率ではなく分散に期待して挑戦してください。
今回の実践編のように、神引きが出るかもしれません。
次回以降は、またABテストに役立つ内容を記事にしていこうと思いますので、お読みいただければ幸いです。
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